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血管が若ければ老後を恐れることはない 適度な運動は認知症の予防にもなる血管が若ければ老後を恐れることはない 適度な運動は認知症の予防にもなる

 男性が81.05年、女性が87.09年。厚生労働省が発表した日本人の平均寿命だ(2022年分)。新型コロナウイルス感染症の影響で、前年と比較して低下しているものの、男女合わせた平均寿命のランキングでは世界でトップをキープしている(WHOの発表より)。一方で、健康寿命は男性が72.68年、女性が75.38年(2019年、厚生労働省)。すなわち、日本人がどんどん長生きになっているといっても、男性においては約8年、女性においては約12年もの間、何らかしらの課題を抱えていながら最後の生活を送っていることになる。介護業界の人材不足が深刻化することで、介護を理由に働き盛りの人間が離職を強いられるなど、平均寿命が伸びることによる課題は絶えない。
 こういった課題に対応する一つの手が、健康寿命を少しでも延ばすこと。この健康寿命を延ばすために求められるのは、血管を若く保つことだと、愛媛大学大学院抗加齢医学(新田ゼラチン)講座教授/愛媛大学医学部附属病院抗加齢・予防医療センター長の伊賀瀬道也氏はいう。血管が若ければ各種の病気を予防でき、認知症にもなりにくいことが、医療業界においても証明されている。血管はイキイキとした老後を過ごすためのカギを握りそうだ。血管を重視する意味や血管を若く保つために必要なことなどについて伊賀瀬氏に聞いた。

伊賀瀬道也さんの写真

愛媛大学大学院抗加齢医学(新田ゼラチン)講座教授/愛媛大学医学部附属病院抗加齢・予防医療センター長

伊賀瀬 道也(いがせ みちや)

1991年愛媛大学医学部を卒業後、同大学第二内科(循環器内科)、1993年公立学校共済組合近畿中央病院循環器内科、1999年愛媛大学大学院・医学博士号取得、2003年米国ノースカロライナ州ウェイクフォレスト大学高血圧血管病センター・リサーチフェロー、愛媛大学大学院脳神経内科老年医学特任教授を経て、2019年より現職。愛媛大学医学部附属病院抗加齢・予防医療センター長(兼任)。近著に『国立大教授・血管の名医が教える80歳の壁を超える血流がみるみるよくなる体の治し方大全』(文響社)がある。

健康寿命を延ばすために血管を研究

――伊賀瀬先生はアンチエイジングの研究に力を注いでいます。そこにたどり着かれるまでの経歴をお聞かせください。

 私は地元の愛媛大学医学部を1991年に卒業、愛媛大学の循環器内科では高血圧の研究者が代々教授を継いでいたので、大学院では高血圧に関して研究をしました。血圧は血の流れなので、必然的に血管の研究に行き着きます。ちょうどそのころは「血管が目で見える」時代になってきたころでもあり、様々な研究が可能となりました。

 博士号を取得した1999年ごろには、高齢者をターゲットとした内科が大事だという機運が高まっており新しい内科として老年科というのが全国の大学ででき始めていました。私も、当時の老年医学講座に助教として採用され、老年科病棟の立ち上げに携わり、高齢者の循環器や高血圧や血管に向き合うことになりました。

 その後、2003年から1年半は米国のウェイクフォレスト大学医学部高血圧血管病センターに留学。留学から戻ってみると、当時の老年科の教授が、「次の時代はアンチエイジングだ」というのです。「今はまだ誰も知らないけれども、これからは体全体の老化を考えるアンチエイジング、日本語では抗加齢という学問が絶対脚光を浴びる」と教授が勧めます。そこで当時の教授とともに2006年に、抗加齢・予防医療センターを作り、血管を中心に見る人間ドックを始めました。

 その後は、アンチエイジングドック、私の病院で言うところの抗加齢ドックを続けています。ただ研究の中心は元々の出身である心臓と血管から、脳と血管の方に移してきました。脳と血管の延長線上に、認知症の予防という、高齢者が抱える非常に大きなテーマがあるためです。

 アンチエイジングと前後して「健康寿命」という言葉も出てきました。健康寿命を延ばすためにはどうしたらいいかを考えると、やはり血管を元気にしなければいけない。そこで血管に関する臨床研究も始めて、今にいたります。

老いた血管で
死に至る確率は圧倒的に増す

――血管が健康の源だということは、医学界ではずっといわれていることなのでしょうか。

伊賀瀬道也さんインタビュー中の写真

 医学の中に「人間は血管とともに老いる(A man is as old as his arteries)」という有名な格言があります。米国の医学者ウィリアム・オスラー博士(1849-1919)の言葉として有名になりましたが、その前には17世紀に活躍した英国の医師トーマス・シデナム(1624-1689)が同じことを主張しています。血管の重要性は300年以上も前から唱えられていることになります。

――先生ご自身を含め、近年の研究でも、血管の重要性がどんどん明らかになってきているのですか。

 先ほど、血管が目に見える時代になってきたというお話しをしましたが、例えば、一般的な人は血管の壁が1年で0.01㎜ずつ厚みを増していくことが分かっています。これはプラークと呼ばれる炎症物質のカスが、歳を取るとうまく排除できずに、壁にたまることで起きることですが、10年経つと壁が0.1㎜厚くなることになります。

 この血管の厚みが病気とどのような関係があるかについて調べるため、頸動脈エコーを利用して頸動脈の厚みのデータを1000人分取得した発表があります。すると、糖尿病の方は約3倍のペースで頸動脈が厚くなることが分かったのです。つまり、血管の年齢でいうならば、糖尿病を患っていると健康な人の3倍のペースで老化していく。実際、糖尿病の方は血管の病気にかかる割合も多いのです。

 またこの発表では1000人のデータを、血管の厚みで4つのグループに分け、10年ぐらいかけて追跡調査をしました。すると10年後、1番壁が厚かったグループ、つまり血管年齢が最も高かった方のうち、約25%は亡くなっていた。ところが、最も薄かったグループの方々は5%しか亡くなっていない。血管の厚さで、寿命に圧倒的な差が出てくることが分かってきました。

 寿命だけではありません。血管に関する研究が10年、20年と進み、様々なデータが蓄積するにつれ、血管年齢が若いほど心臓の病気や脳の病気も少ない等が証明されはじめています。「人間は血管とともに老いる」という格言が、どんどん説得力を増しているという状況にあるのだと思います。

血管を健康にすれば予防できる認知症

――認知症の予防にも取り組まれているとのことでしたが、血管と認知症の関係を教えてください。

 認知症は基本的には神経の変性が原因によって発症するといわれています。このため、神経の変性を起こさないように、脳神経細胞が痛む原因を見つけるのが予防や治療の一つにつながると考えられています。

 ドネペジルやアリセプトなどの抗認知症薬は、脳の細胞が痛んだことによって、上手に出せなくなっている神経伝達物質を増加させる効果があるとされています。ただ、一時的には神経伝達物質は増えるのですが、脳細胞の痛みが進んでしまっている方だと、あまり効果がないということがわかってきました。

 では、そもそもなぜ脳細胞が痛んでしまうのかというと、一つにはアミロイドβ蛋白やタウ蛋白などの毒性の物質が脳に溜まっていくことで細胞が傷んでしまう、「アミロイドβ仮説」というものがあります。治療法としては大元になっているアミロイドβを失くせばいいので、そこで抗アミロイドβ抗体薬が開発されて、日本でも承認されました。理論的には的を射ているのでかなり期待されたのですが、データを見るといまだに十分な効果が見られない。加えて、この薬を使うと脳出血が増えるということも分かってきています。それほど劇的な効果が期待できない薬を、命をかけてまで使うことには正直言うと疑問が残ります。

 今後はタウ蛋白を少なくするなど毒性物質を壊す効果がある安全な薬がたくさん出てくることが予想されています。ただ、どんなに健康な人でも、年を重ねると毒性物質は溜まっていくものです。それならば、そういった毒性物質を壊すよりも、血管を元気にして血流を良くし、余分な毒性物質が溜まる前に流してしまえばいいのはないか。血管の研究に取り組んでいる私は、ずっとそう考えて研究を進めてきました。

 血管が痛むと認知症が進行しやすいということを裏付けるデータもあります。医学誌『ランセット(Lancet)』の国際委員会が2020年に発表した「認知症の12の危険因子」もその1つです。認知症の約40%は高血圧、糖尿病、肥満、喫煙などの危険因子によるものだと指摘していますが、この4つはすべて血管を痛める代表的な因子です。

 そこで、冠動脈や頸動脈などの大きな血管を専門にしていた私としては、心臓から出た血管の20%は頭に行くのだから、これら大きな血管を元気にしてやれば、認知症の予防にある程度の効果が期待できるのではないかと考えて研究を進めました。その結果、これらの大きな血管とともに、脳の中にある毛細血管などの小さい血管も大事であるということが分かってきました。特に最近注目されているのは、夜寝ている間に毛細血管や脳脊髄液を通していらないゴミを排除する「グリンパティックシステム」という働きがあるのではないかということ。とにかく毛細血管も含めて血管を元気にし、いらないゴミを流してやることが、認知症の予防には間違いなく有効だということが分かってきています。

血管が若ければ見た目も若い

――認知症同様に血液を元気にすれば防げることには何がありますか。

 若く見えることと血管の関係はその1つといえます。「アンチエイジング」と聞くと、老化を食い止めて若々しさを維持することとも取られますが、まず一般の方が重要と思われるのが「見た目」でしょう。そこで、この見た目と血管の関係について研究をしたことがあります。

 具体的には私が勤務する抗加齢ドックを受診した方を対象に、見た目と血管年齢の分析を行いました。この研究では、撮影した顔写真のデータからシミ、シワ、毛穴、きめ細かさなどを測定する専門の機械を利用して、受診者の顔写真を撮影。この写真を20人の人に見てもらって「この人は何歳に見えますか?」と尋ねて回答の平均を取りました。それと共に、受診者には首の血管から血管年齢を調べさせてもらい、その関連を分析しました。

 すると、老けて見える方は、実際の年齢より血管年齢が高く、逆に若く見える方は血管年齢が若いという結果となったのです。具体的には老けて見える方と若く見える方では、男性で約8歳、女性で約5歳、血管年齢には差がありました。若く見られるためには、血管を元気にすることが効果的だということです。

 また、皮膚科の先生と協働で調べてみると、シミの面積が広い人ほど血管年齢が高いという傾向も出ました。紫外線の曝露がシミの最も大きな原因ですが、血管年齢も2~3割は関係していると今ではいわれています。また60~70代になるとお肌の毛細血管が3~4割減ると言われているのですが、毛細血管を元気に維持することで、シミを出にくくさせることはできると思います。

他の専門家とコラボして分かったこと

――見た目の研究では皮膚科の先生と協働で研究されたとのことですが、このような協働研究はよくあるのでしょうか。

伊賀瀬道也さんインタビュー中の写真

 私が所属している日本抗加齢医学会は、現在大変盛況で、会員も1万人ぐらいにまで増えてきています。そしてこの学会はちょっと面白い、言い方を変えれば医学界ではちょっと異質な学会です。

 例えば、私は日本循環器学会にも所属しており、この学会には会員が3万人近くいますが、心臓とか血圧とか循環器の専門家しかいません。一方、日本抗加齢医学会には様々な専門家が所属していらっしゃいます。元々日本では抗加齢(アンチエイジング)というと美容のイメージが強く皮膚科の先生などが中心に啓蒙を始めたということもあり、当初は会員の専門分野にも偏りがあったようです。ところが「抗加齢医学は体全体の老化を考える学問だよ」ということが浸透し始めると、私も含めてありとあらゆる専門家が入ってくれました。今ではそういう方たちが様々な発表をしてくださる。

 医学界はわりと縦割りで、すぐ隣の科にいる先生に相談するにもなかなかハードルが高いという実態があります。抗加齢医学会は皮膚科はもちろんのこと、形成外科、整形外科、脳外科、消化器内科、泌尿器科など、循環器科の私が普段は会わないような専門家からお話を聞くことができます。しかもそれについて皆が侃々諤々の議論をできる空気があるので、協働での研究に進むことが多くあります。

――様々な専門家が集まって議論をすることで、例えば、この病気は実は血液が重要だということが分かった、というような事例はあるのでしょうか。

 たくさんありすぎてどれを選べばよいか困るほどですが、分かりやすい事例を挙げるとすると腸内細菌の問題でしょうか。腸内細菌が人間の体に住み着いていることは皆、知っていましたが、消化器科の分野なので、循環器科をはじめとするその他の専門家の視点からの研究がなかなか進んでいませんでした。腸の働きをよくしてくれる善玉菌と、腸の働きを悪くする悪玉菌というのがあって、ビフィズス菌や乳酸菌などの善玉菌さえ飲んでおけばいいのではないかという程度の認識だった時代もありました。

 その後、神経伝達物質のセロトニンが腸でたくさん作られていることが分かると、例えば便秘や下痢が続くと考えがまとまらないといった、だれもが経験しているようなことが、実は脳と腸の連携関係に起因することが分かった。今では、精神科の領域である鬱や、子どもの発育の中で起きる精神的な問題がいかに腸に関係するかの研究も進んでいます。また動脈硬化性の病変が腸内細菌に密接な関係があるということについては、循環器分野でも研究を行う方が増えているようです。

 このように、腸内細菌が乱れてくると様々な病気が出てくるということが分かってきました。腸内細菌が元気であるためには、腸が元気でなくてはならない。腸を取り巻く環境を考えてみると、腸の周りには無数の血管があって栄養を補給している。だから腸内細菌を増やすためには血管も元気にすべきだということにつながっていくのです。

血管の「サビ」と「コゲ」を防止する

――血管を元気にする、若返らせるのには、具体的には何をすればいいのでしょうか。

 体の中の「サビ」(酸化)と「コゲ」(糖化)を増やさないことが大切だと私は言っています。そして、サビを防ぐには「活性酸素」を増やさないこと、コゲを防ぐにはAGEs(終末糖化産物)の抑制が肝要です。

 サビとは、活性酸素が体内のたんぱく質や脂質等と反応して細胞を酸化させること。これが血管で起これば、血管が老化するわけです。人の体内には、活性酸素を分解するSOD(Super Oxide Dismutase)という酵素のような物質があるのですが、加齢とともに減少してしまうので、活性酸素を分解しきれなくなる。そこで、活性酸素を増やす要因を潰していくのが重要となります。

 具体的には、十分な睡眠をとってストレスを減らす、揚げ物を減らす、賞味期限が過ぎた食品や調味料などを使わない、適度に身体を動かす、喫煙しないなどといったことです。一方で、積極的に行うことは、抗酸化作用がある食品を積極的に取り入れること。具体的にはα-ヒドロキシ酸、ビタミンC、E、Aを含む食品ですが、私がお薦めするのはオリーブオイルとニンニクです。これらを食事の中に意識して取り入れることが有効だと思います。

 一方のコゲ、すなわち糖化とは、体内に入った糖がコラーゲンなどのタンパク質と結びつき、これに体温の熱が加わって劣化する現象のこと。糖化を起こすとそこからAGEs(終末糖化産物)という物質が生じ、これが蓄積することで老化を促進します。コラーゲンは血管や皮膚、筋肉などいたるところに存在していて、血管や皮膚の弾力性のもとになっています。ところが、AGEsが増えて糖化したコラーゲンが増えると血管や皮膚の弾力性が失われ、血管の劣化が著しく進んでしまいます。

 糖化を防ぐのに大切なのは、糖質の取り過ぎを避けることと、そしてAGEsは食品にも含まれているのでAGEsの多い食品の摂取を控えることです。こんがりとおいしそうな揚げ物にはAGEsが多く含まれています。揚げ物よりは焼き物の方がAGEsは少なく、さらには蒸し料理なら劇的にAGEsを少なくできます。この順番は覚えておくといいと思います。

鶏肉90gに含まれるAGEsの含有量の表
鶏肉90gに含まれるAGEsの含有量。同じ鶏肉でも調理方法によってAGEsの含有量が大きく異なる。KUは「Kiro Unit」の略でAGEsの含有量を示す基本的な単位(出典:AGE測定推進協会)

やはり必要なのは運動をすること

 さらにサビとコゲ、両方の予防に共通して有効なのは、有酸素運動をすることです。私は、脳の健康を保つためには、高齢者になっても1日1回外に出て、4000歩以上は歩きましょうと提唱しています。昔から、動脈硬化を防ぐには1日1万歩とよくいわれてきましたが、1日4000歩以上歩くことが認知症の予防になるというデータが近年たくさん出ています。

――有酸素運動をするとなぜ血管が若返るのですか。

 血管を弛緩、拡張する働きを持つ一酸化窒素(NO)の分泌を促すためです。ウォーキングやランニング、水泳等の有酸素運動をすると、血流が早くなるほか、血管の1番内側にある内皮細胞に振動が伝わってNOが分泌され、血管を柔らかくし弾力性をもたらしてくれる。血圧を下げたり、内皮細胞の機能低下に起因する動脈硬化の予防をしてくれたり、血管を若く保つためには極めて有効です。

 ただ気をつけて欲しいのは、負荷をかけすぎないということ。負荷をかけすぎると、足や腰などが悲鳴をあげるケースもあります。笑いながらできる程度の激しくない有酸素運動でも、十分に血管を元気にできます。私はこれを「ニコニコ運動」と表現しています。

血圧は下げればいいものではない

――血圧が高いことで悩む高齢者も多くいますが、有酸素運動は血圧を下げる効果もあるのですね。

 そうです。血圧に関していえば、血圧が高い人に対して十分な生活背景を確認しないまま薬で下げようとしている風潮に、私は疑問を抱いています。血圧を下げすぎると血流が下がる。当然、脳の血流も下がりますから。昔は、上の血圧で160を1つの目安にしていましたが、20~30年ぐらい前からこの基準がどんどん下がってきています。140にしようという時代もありましたが、今では130以下を保つことが基準となっています。

 ただ、病院で医師や看護師に血圧を測定してもらうと、緊張して普段より高い数値が出てしまう患者さんが多くいます。これを「白衣現象」といいますが、病院の外来で血圧が130を少し超えたからといって高血圧症の薬を飲んでしまうと、ご自宅では100以下、寝ている間には60以下に下がっているなどということにもなりかねない。これはABPM(24時間自由行動下血圧測定) といわれる24時間血圧を測定する検査をするとよく見つかります。

 私の病院に相談に来られる高齢者の中には、普段からとにかく疲れる、やる気が出ない、鬱っぽい、といわれる方が少なくない。こうした方々の中には、認知機能が心配な方も多くいます。お薬手帳を拝見すると、血圧が基準値を少し超えた程度なのに、下げるための薬をたくさん飲んでいるのです。これでは脳の血流が下がってしまってだるくなるのも仕方がありません。認知症も当然心配になってくる。こういった方々には主治医の先生としっかり相談していただき可能なら薬を減らすこととともに、有酸素運動をしてくださいとアドバイスするようにしています。

――有酸素運動は、特に高齢者の場合は、元気な血管を保つために有効なのですね。

 そうです。だからコロナウイルス感染症の時には、ひどいことになってしまいました。コロナ禍において、高齢者の方は外に出るな、じっとしておけといわれたし、そういう風潮でしたよね。私の外来やドックにも、コロナで外に出ない、歩かないといった患者さんが山ほどいました。そしてその結果、足腰が弱ったり、寝たきりになったり、血管を弱らせて認知機能が下がったり。そんな状況だったのです。

伊賀瀬道也さんインタビュー中の写真

 私はこれを「コロナ関連フレイル(加齢により心身が衰えた健康と要介護の間の虚弱な状態)」と名付けました。外出や運動を必要以上に制限する必要があったのだろうかと今でも疑問に思っています。コロナウイルス感染症は空気感染ですから、マスクをしてもほとんど効果がないことは証明されています。是非高齢者の方には、健康でいてもらえるために、マスクをつけずにニコニコしながら有酸素運動を楽しんでもらえたらと思います。

(写真:吉成大輔)
※本記事内の製品やサービス、所属などの情報は取材時(2024年1月)時点のものです。