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eスポーツを知ってほしいから自分を磨く 選手会設立など歴史が浅いからやるべきことは多いeスポーツを知ってほしいから自分を磨く 選手会設立など歴史が浅いからやるべきことは多い

今や中学生の「なりたい職業ランキング」でYouTuberの次に位置するプロeスポーツプレーヤー。eスポーツが野球やサッカーと同等の「エコシステム」を形成するためには、その魅力を多くの聴衆に届け、また入場料などの収入源に貢献するプロeスポーツプレーヤーの存在は欠かせない。
一方で、歴史が浅いこともあり、他のスポーツ選手と比べて職業として見たときのプロeスポーツプレーヤーの環境整備が遅れているのは否めない。また、娯楽としてどこか悪影響のイメージが強いゲームをベースとするために、世間体が悪いと考える向きも多くいる。本当にプロeスポーツプレーヤーが職業として一般化するためには、このような負のイメージをできる限り取り除くとともに、セカンドキャリアを含め安心してeスポーツに注力できるような環境を業界として確立することが必要だ。
東京大学を卒業後、プロeスポーツプレーヤーとして輝かしい戦績を重ねるとともにeスポーツに関する情報を積極的に発信するときど氏に、eスポーツが持つ魅力やこれから市場が拡大するために克服すべき課題などについて聞いた。

ときどさんの写真

プロeスポーツプレーヤー

ときど

1985年沖縄県那覇市生まれ。麻布中学校・高等学校卒業後、1浪を経て、東京大学教養学部理科一類入学。同大学工学部マテリアル工学科に進学・卒業。同大学大学院工学系研究科マテリアル工学専攻中退。2010年に格闘ゲームでプロデビュー。17年世界最大級の格闘ゲーム大会「EVO」優勝、18年カプコンプロツアー年間ポイントランキング1位など輝かしい戦績を重ね、TBS系ドキュメンタリー「情熱大陸」にも取り上げられるなど、日本で最も知られるプロeスポーツプレーヤーの1人。

言葉もカルチャーも違う海外の人々とつながる魅力

――ときどさんは、東大卒のeスポーツ・プロライセンス保持者で、プロeスポーツプレーヤーとしても日本の第一人者です。eスポーツの魅力はどのようなところにあるのでしょうか。

ときどさんインタビュー中の写真

 まずは世界中でプレイされているということが大きな魅力です。ゲームはそもそも遊びなので、楽しみながらできるのですが、その遊びが世界に広がっている。そして世界のプレーヤーとオンラインでプレイすることで、言葉も違えばカルチャーも全然違う人たちと、ゲームを通じてコミュニケーションが取れます。そこから友達の輪が広がっていくこともありますし、こんなことってほかにはあまりないと思います。

 僕は高校2年生のときに初めてアメリカの大会に出て、eスポーツに関連する人の多さや会場の大きさなど、規模の大きさに圧倒されました。そこで、もっといろいろな人と話をしたいと感じて、英語を頑張るようになりました。ビジネスで英語をやらなきゃならない、でもモチベーションが上がらない、というような人には、海外の人と触れ合うきっかけ作りになるのではないでしょうか。

 また、当たり前のことですが家で気軽に楽しめるのも魅力の1つです。 一昔前だと、休日にはゴルフに行ったりドライブをしたりというのが主流だったように思いますが、eスポーツであれば今は家で設備さえ最初に整えてしまえばお金もそんなにかからずに遊べてしまう。それも世界の輪に加わりながら遊べるというのは、大きな魅力ではないでしょうか。

ゲームのキャラクターにはその人の個性がシンクロする

――ときどさんは、eスポーツの中でも格闘ゲームを専門としていますが、格闘ゲームの魅力についてはいかがでしょうか?

「CAPCOM Pro Tour 2019 アジアプレミア」の決勝大会の様子
ステージで対戦する様子。奥に座っているのがときど氏。2019年に開催された「CAPCOM Pro Tour 2019 アジアプレミア」の決勝大会から
(写真:unific)

 プレーヤーの「人としての面白さ」や「人生」がプレイに出ることです。ゲーム全体もそうですがとりわけ格闘ゲームは、悪影響を与えるものだと思われていた時期が長くありました。そうした環境の中で続けている人達は、「俺はこれをやるんだ」という強い意志を持っている。そして実際に会ってみると皆個性的で、話も面白い。そして、個々の人柄や人生がプレイスタイルにも表れるのです。

 例えば僕は、プレイ中に余裕があると、調子に乗っていつもと違うことをしたりして遊んでしまうことがあります。 その余裕が新たな気づきを与えてくれるなどいいところもあるのですが、つけ込まれて逆転されてしまって反省することもある。一方で、プロeスポーツプレーヤーの中にはリアルの格闘技を長くやっていて、ある団体のチャンピオンにまで上り詰めた経歴を持つ人がいるのですが、その人は一切遊ばない。勝つことに徹底するんです。一発もらって大逆転されたり激痛にもんどり打ったりという怖さを肌感覚で知っているから、ゲームにも隙や遊びを持ち込まないのでしょう。

 格闘ゲームは、昔に比べてキャラクターの種類がとても増えています。いずれのキャラクターも個性が豊かなので、その中から自分の人生や経験をプレイに反映できるようなキャラクターを選んで使う。実際にはどんなキャラクターを選んでも構わないのですが、今までその人が積み上げてきた人生は、他人では同じ経験ができないので、それが活かせるようなキャラクターを使うとやっぱシンクロ率が高くなります。そして深みのあるプレイにつながりやすいと感じています。

単にゲームがうまいだけではない、努力が必要なのは社会と同様

――ときどさんは、そのような魅力を持つeスポーツを広める活動を意識的にされています。

 活動をしていく上で大前提としてあるのが、「競技大会で勝つ」ということです。自分の主張を通すためにも、先ずは勝つこと。そして、勝つための練習は欠かしません。メディアに取り上げてもらうことも増えては来ましたが、だからと言って、勝っているだけでeスポーツが勝手に広まっていくという段階ではまだないと思っています。そこで、YouTubeチャンネルを開設する等、自分からの発信にも力を入れています。

 YouTubeでは、格闘ゲームのことをよく知っている人たちの心をつかみつつ、eスポーツとはなじみの薄い人たちにも興味を持ってもらえるような話題の提供も意識しています。例えば、過去の対戦を振り返って、「あの試合のあの場面ではこういうことを考えていた」「こういう事前の準備をして臨んだ」等マニアが知りたいことも話します。一方で、「ゲームのテクニックだけで勝敗が決まるわけではなく、筋トレをしたり、対戦の前に階段を駆け上って心拍数を上げて体調を整えたりするんですよ」といった話題も提供し、ゲームだけでなく勝負事に勝つにはというところにまで広げて話をすることもあります。

 また「Global Esports Federation(GEF)」という、eスポーツを広めるために国同士が連携を取っている団体があるのですが、僕はそのアスリート・プレーヤー部門に所属しています。そこでは2~3カ月に1度の頻度でプロeスポーツプレーヤーや、リアルのオリンピックに出たアスリートたちと意見交換をする活動をしています。直近では、プロeスポーツプレーヤーのセカンドキャリアや、女性のプレーヤーが少ないなどの問題が話題となりました。

――そこでも話題に出た、プロeスポーツプレーヤーのセカンドキャリアについては、どのような問題意識をお持ちですか。

 このままeスポーツのシーンが発展していくというのを前提にするのであれば、プロeスポーツプレーヤーが辞める理由は年齢による衰えがほとんどでしょう。であれば自分の培った経験を後に続く才能のあるプレーヤーたちに伝えていくということで、トレーナーやコーチになるのがまずは考えられます。ゲームメーカーで開発者側にまわるプレーヤーもいますが、もっと大きな受け皿にする必要はあると思います。

 あとは知名度を生かして、並大抵の努力ではeスポーツでトップ中のトップにはなれない、ということを様々な場所で話し、広めていくことも、セカンドキャリアにつながる話です。プロeスポーツプレーヤーというと、世間ではまだまだ「ゲームが上手い人」という印象を持たれていると思います。ただ実際には、試合に至るまでにものすごく情報収集して、気が遠くなるような時間を費やして対策するといった努力がある。つまり、普通の仕事で成功するためにすることと同じで、取っている行動は社会の中で立派に通用することです。こういう話を、誰かが世間に広める使命があると思います。そうすることで、プロeスポーツプレーヤーに対する偏見もなくなっていき、セカンドキャリアも多彩になるのではないでしょうか。

大会会場が体育館から翌年はラスベガスにステップアップ

――eスポーツ市場は、順調に広がりを見せているようですが、それはどのようなシーンで感じられますか。

 日本では、中学生の「なりたい職業ランキング」で1位のYouTuberに続いて、プロeスポーツプレーヤーが2位に入ったという話を聞くと、注目度が上がっているのを感じますね。この2、3年でメディアに取り上げられることも増えてきましたし、街で話しかけられることも増えました。

ソニー生命保険が2021年6月、中高生1000人を対象に実施したネット調査「中高生が思い描く将来についての意識調査」では男子中学生の1位が「YouTuberなどの動画投稿者」(23.0%)、2位が「プロeスポーツプレイヤー」(17.0%)、5位が「ゲーム実況者」(12.0%)だった。

 海外では、参加する大会の規模が年々大きくなっていて、広がりをさらに実感しています。米国に「エボリューション・チャンピオンシップ・シリーズ(EVO)」という格闘ゲームの世界最大級の大会があります。僕は先ほどお話ししたように高校生の時に初めて参加し、これまでに10回以上は参加しています。

 このEVOですが、最初に参加したときは、「どこかの学校の体育館に皆でゲームを持ち寄って遊びましょう」みたいなイベントだったんです。場所はロサンゼルスでしたが、参加人数と観衆も含めて300人ぐらいだったのではないでしょうか。それが次の年にはネバダ州のラスベガスに会場を移しました。メイン通りから遠く離れた端っこにあるホテルが会場で、人数は1000人に増えた。そしてそれ以降は、同じラスベガスでも会場がどんどんメイン通りに近づいていき、2016年からはマンダレイ・ベイというだれもが知っているようなホテルで決勝戦をやるようになりました。観衆も万の単位に膨れあがっています。

 一方で日本では、EVOの地区開催である「EVO Japan」という大会が2018年から3回開催されましたが、本家のEVOに比べるとまだまだ規模も小さいです。でも本家だって、体育館から何十年もかけて作り上げてきたんですから、今はコロナ禍で開催ができていないものの、日本においてもこれからどんどん期待できると思います。

――eスポーツと相性がいいビジネスや、波及効果が期待できる市場はどのようなものが考えられますか。

ときどさんインタビュー中の写真

 僕は今、目薬をメインの商品として販売する会社とスポンサー契約を結んでいます。目薬はeスポーツで酷使した目を癒す必須アイテムなので、こういった商品とeスポーツの相性はバッチリ合ってますよね。それ以外だと、例えばお菓子を食べながらゲームをプレイする人は多いと思うので、お菓子メーカーとか飲料とか。ハードでいえばパソコンとかコントローラとか。少し目配りするといろいろあると思います。また、夜起きていることが多いので、夜に受けられるサービスはいいかもしれませんね。コンビニやデリバリーサービスなどが考えられます。

 ゲーミング専用の部屋を用意したホテルやゲーム専用の物件を紹介する不動産もあるようです。eスポーツのプレーヤーが増えていけば、そういったサービスも増えていくことが考えられます。新型コロナウイルス感染症が発生して以降、大会自体、オンラインで開催されることが増えていることもあって、ホテルでもマンションでも、安定した太い通信回線であることはますます重要です。

1匹狼のプレーヤーを守る組織もeスポーツを広めるためには必要

――今後、さらにeスポーツ市場を広めるためには、どのような課題があると思われますか。

 それぞれにやるべきことがあると思います。メーカーであれば、ゲームをしていない層に関心を持ってもらいつつ、ゲームをしている人が他に移らないような頑張りが必要でしょう。イベント運営者には、やはり魅力的なイベントを増やしていただきたい。

 一方で、僕のようなプロeスポーツプレーヤーの立場から、今のeスポーツシーンの抱える問題点として考えられるのは、プロeスポーツプレーヤーを守ってくれる後ろ盾がないということです。プレーヤーは僕も含めてですが1匹狼が多くいて、組織として活動していません。それに対して、例えばメーカー側の組織やイベント団体の組織はできています。プレーヤーはちょっと立場が弱いのかな、というのは感じています。

 eスポーツは歴史が浅いこともあって、プレーヤーはすごく元気に活動できています。また、目立った不利益を被っているという話も表には出てきていません。ただこれから先、市場が拡大していけば、プロeスポーツプレーヤーに関連する問題も出てくると思います。そうしたときに個人の力だけでなく集団で意見を言うべきだというシーンが遅かれ早かれ来るのではないでしょうか。そんなとき、選手会のようなプレーヤーが集団で意見を言えるような団体が、必要になってくるのだと思います。

 もちろん、eスポーツ市場を拡大させる担い手はプロeスポーツプレーヤーだけではありません。ただ少しでも安心してプレイに集中できるような環境ができればプロeスポーツプレーヤーを目指す人の拡大にもなりますし、eスポーツ市場の拡大にもつながると思います。

人間力を高めることがeスポーツ市場の拡大に貢献する

――先ほどYouTubeのお話しのようにときどさんは市場拡大のためにいろいろ活動されていますが、その中でも重要だと思われることは何でしょうか?

2017年に開催された「EVO」での入場シーン
2017年に開催された「EVO」での入場シーン。2625人がエントリーした『ストリートファイターV』の部門で、見事に優勝を果たした(写真提供:TOPANGA)

 eスポーツの魅力を、プレーヤーとしてとにかく訴えかけていきたいですよね。既に僕のことを知ってくれていて、長く応援してくれている人たちのことは、もちろん大切にはします。ただ、その人たちだけを大切にしていたら、そのうち業界は様々な意味で年老いてしまう。新しい人をどんどん取り入れていくことが絶対に必要だ、ということを僕は常々言っています。

 では、eスポーツを知らない人たち、新しい人たちに何を訴えかけていくのか。それは、eスポーツというものを「競技」として捉えたときに、やるべき事はeスポーツだけではないということです。トップで戦うためには、情報収集もしなければならないし、勉強もする。世界が舞台だから、コミュニケーションを英語で取って、様々な国や地域の戦い方を知ることで、自分のプレイを磨く。そこでは、一人用のモードの練習と実戦形式のスパーリングを行き来することで、いざ本番で実力を発揮できるようにします。このように、自分の人間力を高めることが、eスポーツの上達にもつながるんだということを、僕は信じている。

 「家にいて遊んでいるだけじゃないか」というような意見も届いてきます。でも、遊んでいるという言葉を使うなら、きっちり勝つために真剣に遊んでいるんです。そういったことを、きちんと発信していくことで、まだ僕のことを知らない、この世界のことを知らない人たちにアピールしていくということを、実践していきたい。

 僕らプロeスポーツプレーヤーが全身全霊をかけてやれば、eスポーツをやったことがない人にもそこは伝わるはずです。プレイを通じても伝わりますし、プレイが終わったあとの表情1つでも。ただそれが伝わる条件は、本当に人生をかけて取り組むことだと思います。それをちゃんとやっていれば、自然と言葉や表現に出てくるはずなので。メディアに取り上げられても、実は中身がなかったなあってなると、すぐに沈んでしまう。そうならないためには、自分の主張、人間性を日々磨き上げて、機会があったらそれを爆発させる準備をしておこう。ここを絶対に間違えちゃいけないと、自戒を込めて言っています。

eスポーツの発展のためには業界の連携をさらに強める

――eスポーツ業界に対して思うことはありますか。

 全体として見れば、ここ数年は確実に飛躍しました。そのうえで思うのは、プレーヤー、メーカー、イベント運営と、それぞれの頑張りで飛躍を実現しましたが、連携しているという感じがあまりしない、ということでしょうか。プレーヤー側から思うのは、プレーヤーのことを考えてくれる企業、事務所等、こちら側に立ってくれる人たちの層がもっと厚くなってくれることが必要になると思います。

 それは歴史が浅いからこそ、若い人たちに教えてあげる必要があるという観点からでもあります。eスポーツの世界は、リアルのスポーツの世界以上にどんどんルールが変わります。eスポーツのソフトを販売しているメーカーは、同じようなものを視聴者に見せても飽きられてしまうので、少しずつ内容を変えて、同じプレーヤーを勝たせないようにする。でもそれは、この業界を広げていくためには当然のことでしょう。

 こういった事情があるので、プレーヤーはいっとき調子が良くて輝いたり、ゲームとの相性が良くて勝っていたりしても、天狗になったら絶対にダメなんです。若いプレーヤーはそれに気付いて取り組んで欲しいし、またそういったことをプレーヤーと一緒に考えてくれるような人たちが、企業やスポンサーにもっと出てほしいと思います。

――eスポーツで今後、注目されることは何でしょう。

ときどさんの写真

 リアルの復活でしょうか。世界的にコロナがひと段落したという認識が広がっていて、今年3年ぶりにEVOがリアルで復活します(8月5日~7日にラスベガスで開催)。コロナ禍においてオフラインが中心だった大会が、ポストコロナでどう変わっていくのか。観衆はリアルに飢えています。コロナ直前ぐらいの時期には、格闘ゲームで日本に追いつく勢いを見せていたアメリカが、コロナを挟んでどうなったのかなど、リアルの世界で勢力図はどうなったかというのが、これから見えてくることになると思います。

 僕もアメリカに行きます。楽しみにしていてください。

(写真:吉成大輔)

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