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心を動かすあかり 感性ライティング篇

METoA Ginzaイベント「HOPE FOR UNIVERSE」 心を動かすあかり【感性ライティング 篇】METoA Ginzaイベント「HOPE FOR UNIVERSE」 心を動かすあかり【感性ライティング 篇】

屋内の光が、木漏れ日や、水面のきらめきのような光だったなら。
私たちの日々はもっと豊かなものになるだろう。
ガラスの屈折と照明技術を組み合わせて「ゆらぎ」を表現する「感性ライティング」。
この作品は、照らすための光ではなく、「見る」ための光のあり方を提案する。

ゆらぎを表現するライティング

土佐 尚子(とさなおこ)の写真
京都大学大学院総合生存学館 アートイノベーション産学共同講座教授
土佐 尚子(とさなおこ)

最新の科学技術を駆使して作品を制作するアーティスト兼研究者。

桑田 宗晴(くわたむねはる)の写真
三菱電機株式会社 開発本部 先端技術総合研究所 オプトメカニズム技術部
桑田 宗晴(くわたむねはる)

2018年4月より、感性ライティングの共同研究を行う。

──感性ライティングとはどんな光で、どういう経緯で生まれたのですか。

桑田:もともと我々は、一般的な白色の照明とは違う、快適な照明を作りたいと思っていました。人間は自然を快適と感じる性質があるので、自然を模擬する照明を開発したい、と。そこで、まずは第一弾で、「青空照明」という青空を模擬する照明を作りました。

次のステップとして、「人は何に癒されるだろうか」という考えからアプローチしていきました。「癒し」という要素からは、木漏れ日や、水面で揺れる光を連想した。そこで、「ゆらぎ」を表現する照明を作りたいと考えるになりました。

そんなとき、土佐先生のアート作品「Genesis」や「Sound of Ikebana」と出会いました。ぜひ、これを照明に活かしたいと思い、土佐先生にご相談しました。それが「感性ライティング」のきっかけです。

Genesis 2017
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    Genesis 2017
    絵の具の顔料と一緒にドライアイスをゲル状の液体の中に入れると、流体力学でよく知られているラミナーフロー現象が起こる。その現象をハイスピードカメラで撮影した作品。

    Sound of Ikebana
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      Sound of Ikebana
      音波振動と液体から生まれる造形をアートにした作品。
      日本文化の根底にある美意識は、「自然に隠された美を取り出したものだ」という視点によって制作され、国際的な評価を得た。

      土佐:2017年の秋に登壇したイベントで、アート&テクノロジーについて話す機会があったんです。そのイベントで、桑田さんが前の方に座っていらした。それがきっかけで、いろいろなお話をするようになりました。二人の関心分野に共通するところがあったので、「共同研究をしたら何か面白いものができるかもしれない」ということになり、2018年度の4月から共同研究を始めました。

      ──桑田さんは土佐先生に会われる以前から、自然をコンセプトに次世代の光を作る構想がありましたか。

      桑田:正直そこまで明確にはなかったかもしれないですね。

      ──では、土佐先生の個展を見てひらめいた?

      桑田:うん、そういう感じですね。

      土佐:ありがたいですね。

      関心分野に共通するところがあった二人は、2018年4月より共同研究を開始した。
      関心分野に共通するところがあった二人は、2018年4月より共同研究を開始した。

      今までにないガラス技法と三菱電機のライティング技術で、
      太陽の光が生み出すゆらぎをつくる

      土佐:以前は、大学院の教員をする傍らで、デザインスクールにも所属していました。そこの生徒たちと一緒に「Genesis」に和紙を貼ったり、スモークを焚いたり、ドライアイスを使ったり……色々試していたけれど、なかなか落ち着いて研究ができない状況でした。

      その後、総合生存学館に移ってから、「屈折」に興味を持ったんです。ある時、ガラスやアクリル、ペットボトルなど、屈折させるものを介して、プロジェクターで「Genesis」を投影してみました。すると、きれいな光の反射ができた。

      それを桑田さんや関係者に見せたら、「ガラスなどのモノの方に色をつけることによって、Genesisを投影するのと同じようなことができるんじゃないか」という話になりました。ここが大きな飛躍でした。

      それから、ガラスを使って何を作るか、決めていくための試行錯誤がありました。

      1/2000秒のハイスピードカメラで生成される「Sound of Ikebana」のようなものを、三次元造形で生み出したい、という気持ちがありました。亀岡にあるガラス工房に毎週末通い、ガラスの技法を学びました。一年間ほど試行錯誤を行ったころ、建築家アントニ・ガウディの作品「サグラダ・ファミリア」にヒントを得ました。この建築作品は、重力でつりさがる砂袋を利用して尖塔の形を作っています。

      そこで、ガラスでも「重力で垂れる」動きを利用した造形ができるのではないかと考えました。800℃に熱したガラスを銅の型に乗せ、重力で垂れ下がる形状を作ることで、「Sound of Ikebana」のような造形を作り出しました。そうしてできた作品が「光のいけばな」です。こうした制作過程では、方法論そのものを一から作っていきました。以下の写真のように、手作りした銅の鋳型の上にガラスを垂らして電気炉の中に入れるという、今までに存在しなかった技法です。

      もう一方で、シャンデリアの技法を用いて、多様な屈折を持つ色ガラスの作成も進めました。そのガラスを、反射する白い紙の上で回転させ、屈折が移動していくようにした。これが、「光のテーブル」の原型です。

      感性ライティング「光のいけばな」
      感性ライティング「光のいけばな」
      感性ライティング「光のテーブル」
      感性ライティング「光のテーブル」

      桑田:ガラスアートができたときに、最初は一般的な懐中電灯みたいなもので照らしていたんです。きれいだけれど、輪郭がぼやっとしてる。そこでひらめいたのが、コースティクスという現象です。例えば太陽の光が水面に当たって、海底にあるパターンを作る。あれは、太陽からの平行光が当たってはじめて、ああいうきれいなパターンが出るんです。そういうことがガラスのアートでもできれば、もっときれいな、より自然なパターンが見せられるんじゃないかと思いました。そこで我々のライティング技術を使って、太陽の光に近いまっすぐな光を当ててみた。結果、今のようなはっきりしたパターンが出てくるようになりました。

      生きるためのテクノロジー

      ──感性ライティングがあることで、くらしや社会はどんな風に変わっていくのでしょう。

      桑田:今までの照明は「明るく均一に照らす」という機能が求められていました。一方で、「感性ライティング」は、見るための、見せるための役割を持っているあかりです。明るさや色温度だけではなく、ゆらぎのパターンを見せる。その結果、人が癒されていく。

      実際に、京都大学の学生・職員計24名を対象にした心理評価実験では、ほぼ全ての質問項目に関して、「感性ライティング」がLED照明と比較して優れているという評価結果が得られました。代表的な結果として、「リラックスできる」「アイデアがわく」などの項目において、有意な差があったのです。人々の心を豊かにするという新しい機能が、このライティングで実現できるのではないかと思います。

      光の質って、とても大事なものだと思っているんです。空気や水、食べ物などの品質が重要であるのと同じように、光にも「質」というものが求められてしかるべきだ、と。だから、心を癒せるような質の光を実現することはすごく重要だと思います。

      生きるためのテクノロジーの図

      ──たとえば、どんな場所に「感性ライティング」をとりこめるのでしょうか。

      桑田:ホテルやレストランなど、特別なシーンで使うのもひとつの方法ですが、できればやっぱり、ご自宅やオフィスのような、日常を過ごされる場所で使ってほしいです。

      土佐:「灯り(あかり)」は、人類の知恵によって発見されたものです。最初は、火だった。当時の火は人間にとって新しいテクノロジーであり、人々は、火を囲んで食べ物を焼いたり、コミュニケーションしたりしていました。現代では、人々のコミュニケーションに欠かせないのは、「テーブル」です。このテーブルと、火に見立てた「灯り(あかり)」を合体することにより、コミュニケーションは、より豊かになると考えました。そうした意図から、「光のテーブル」を創作しました。

      これからの光は、暗いところを明るくするための技術だけではなく、人々の心を変える、心を照らす、生きるためのテクノロジーになると思います。私たちの住んでいる場所は、だんだん都市化して、日々ビルに囲まれて過ごすようになっている。すると精神的に圧迫されると思うんです。そんな中で、光というものは、人々が自然にかえれるようなテクノロジーになると思います。

      現代でしか見ることのできない宇宙

      ──個展を開かれた際に、アンケート回答の中で「宇宙を見ているみたいだ」という声があったそうですね。

      土佐:私たち自身が、宇宙の塵から生まれたものですからね。でも、そういうことは、なかなか実体験としては感じられない。それをつなげられる気がして、こういう仕事をしています。私の仕事は、先端技術を使って自然を見る、自然の中の美を見るということをコンセプトにしているんです。人間は、レオナルド・ダ・ヴィンチの頃から、裸眼でそれをしてきました。自然の中の美しいものを描いたり、聞いたり、表現したり、文字にしたり。

      でも今、三菱電機さんと一緒に先端技術を用いて自然の中にある美を発見し、それを人々に提供していくことは、現代でしかできないことだと思います。現代でしか見ることのできない宇宙だと思います。だから意味があることだ、と。

      桑田:子どもの頃は、星を見るのが好きで。現代宇宙論に大きな影響を与えたアインシュタインのような理論物理学者になりたいなと思っていました。それで、天文をやろうと大学に行ったのですが、諸事情があって諦めまして。宇宙の研究自体は諦めたけれど、じゃあ星を見るための望遠鏡を作ってみよう、ということで、望遠鏡メーカーに就職しました。

      その後、三菱電機に来て、今はディスプレイや照明の仕事をやっています。その中で、「青空照明」を作り、その次に「感性ライティング」を作った。すると、「小宇宙みたいだ」という声が届いた。だんだんまた、空から宇宙に、子供の頃の夢に向かいつつあるのかな、と、非常にワクワクしています。