世界中が持続可能な社会の実現に向けて本気で取り組む今、ビジネスの拠点である「ビル」も環境に配慮した新しいカタチへと変わろうとしている。それがZEB(net Zero Energy Building)。快適な室内環境を保ちながら、建物の高断熱化や設備の高効率化による「省エネ」と太陽光発電等の「創エネ」により、年間のエネルギー収支をプラスマイナスゼロにする建築物だ。総合電機メーカー初のZEBプランナー*である三菱電機が、省エネと健康性・快適性を研究・実証するため、つまりは“サステナビリティ”と“働きやすさ”の両立を検証するために建てた実証施設が「SUSTIE(サスティエ)」。今回はそんなSUSTIEに足を運び、三菱電機がZEBに注力する理由やSUSTIEの具体的な機能と仕様、今後のビジョンなどを聞いた。
*「ZEB設計ガイドライン」や「ZEBや省エネ建築物を設計するための技術や設計知見」を活用して、一般に向けて広くZEB実現に向けた相談窓口を有し、業務支援(建築設計、設備設計、設計施工、省エネ設計、コンサルティング等)を行い、その活動を公表する事業者。
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省エネでありながら快適なビル、それがZEB


最初にZEBについて簡単に説明しておきたい。前述の通り、ビルの省エネと再生エネルギーの活用により、年間の一次エネルギー消費量収支をプラスマイナスゼロにすることを目指すのがZEBの定義。その達成度に応じて4段階のレベルがあり、基準一次エネルギー消費量を正味100%以上低減させた建築物が『ZEB』である。環境省も「2050年のカーボンニュートラル実現の姿を見据えつつ、2030年に目指すべき建築物の姿としては、現在、技術的かつ経済的に利用可能な技術を最大限活用し、新築される建築物についてはZEB基準の水準の省エネルギー性能が確保されていることを目指す」と、ZEBの必要性を明言している。


都市部の中規模ビルで『ZEB』を実現するという挑戦
総合電機メーカー初のZEBプランナーとして、業界に先駆けてZEBに注力してきた三菱電機。その背景を、ZEB推進グループの大谷さんはこう話す。
事業推進本部 販売統括部 スマートビル企画部
ZEB推進グループ
大谷 晋一郎(おおたに しんいちろう)
大谷:日本政府が「2030年までに新築の建物をZEBにする」という目標を掲げていることもあり、今後、ビルの市場はZEBが中心になっていくと考えられます。そのための基盤を早期に固めておくという事業的な戦略がひとつ。もうひとつは、地球規模の環境課題の解決に向けた企業としての責任です。三菱電機ではグループ全体の長期環境経営ビジョンとして「環境ビジョン2050」を掲げており、ZEBの推進もその一環と捉え、普及に力を注いでいます。
ZEBの普及に力を注ぐ三菱電機。だからこそ、多くのビルが存在する都市部で最高ランクの『ZEB』を実現することにこだわった。しかし、それは決して簡単なことではない。
大谷:これまでの『ZEB』はそもそもエネルギー消費量の少ない1,000m2レベルのビルが多く、それより大きな建物では建物外の敷地に太陽光パネルを並べることで設計基準を満たしていました。そうした設計は敷地の広い郊外であれば可能ですが、敷地面積に余裕のない都市部では難しい。ZEB関連技術実証棟「SUSTIE」は、6,000m2以上という中規模の多層階ビルで、しかも太陽光パネルを建物上だけに設置するという敷地面積に余裕がない都市部の実情に即した条件で建設しました。これは数多くのZEBプランニングの支援をしてきた三菱電機にとってもチャレンジングな取り組みでした。
ビルは階層が高まり「体積」が増しても、屋上の「面積」は変わらない。つまり、消費エネルギーの増加に応じた創エネが困難なのだ。にもかかわらず、SUSTIEは最高ランクの『ZEB』を達成するばかりか、省エネの認証制度であるBELS*で最高評価の5スター(☆☆☆☆☆)をも取得している。その理由に迫ってみよう。
*Building-Housing Energy-efficiency Labeling System、国内において優れた省エネ性能を持つ建物に評価を与える建築物省エネルギー性能表示制度
設計から運用までサポートできる三菱電機グループの強み
大谷:ひとつは、総合電機メーカーならではの高効率機器です。空調、照明、換気、給湯、昇降機といったZEB関連の機器は、いずれも最先端のものを取り揃えており、SUSTIEにも惜しみなく使用しました。また、自然エネルギーの活用においては屋上だけでなく南面各階の庇上にも太陽光パネルを配置するほか、各階南面の換気窓から導入した自然風を放射冷暖房パネルにより室温に近づけるよう予冷をして取り込む、吹き抜け空間上部に溜まった空気を重力により換気するといった工夫も取り入れています。


三菱電機がSUSTIEで取り組んでいるミッションのひとつが、設計段階だけでなく運用中においても『ZEB』に準拠した省エネを実現すること。そのため、BIM*を活用したビル・シミュレーターを導入し、消費エネルギーと快適性を予測。省エネと快適性の最適なバランスを取ることができるよう配慮している。

大谷:建物が『ZEB』であるかどうかは設計データをもとに認定されますが、竣工後の省エネ性や快適性もしっかりと維持していく必要があります。そのため、SUSTIEではビルの運用開始後も省エネの効果を維持することで、竣工後のメリットも感じていただけるよう検証を重ねているところです。実際にSUSTIEは運用段階においても『ZEB』を達成しており、今後のソリューションに応用できたらと考えています。
*Building Information Modeling:管理情報・材質情報などの属性情報を追加した3Dの建物モデルを設計・施工・維持管理まで一貫して利用・共有することで、建物の管理を効率化する設計方法。
さらに、大谷さんは“三菱電機ならではの強み”として、このように続けた。
大谷:今後、ZEBをお客様にご提案するうえで、SUSTIEに導入した高効率機器や省エネ支援サービスなどをオールインワンでご提供できることが三菱電機グループの大きな強みと考えています。これらを一本化することで、日々のメンテナンスや定期点検といった保守においても一括してお任せいただくことができます。三菱電機グループならZEBの運用を省力化するという点もPRしていきたいですね。

快適性を検証するため「人が働く」オフィスに
SUSTIEの特徴として見逃せないのが、『ZEB』の実証施設でありながら実際に三菱電機の社員が働くオフィスとして機能していること。テレワークの推進により出社率は高くないものの、現在260名がSUSTIEに籍を置いている。
大谷:社員たちにここで働いてもらうことで、実際のオフィスと同じ条件で『ZEB』を運用できることが理由です。省エネと並ぶSUSTIEのもうひとつの特徴である快適性=働きやすさの検証においても、数値化できない人の感覚により評価することができますからね。
その“働きやすさ”の実現を担ったのが、三菱電機の統合デザイン研究所。デザイナーの釜本さんに、こだわりのポイントを聞いた。
統合デザイン研究所 ソリューションデザイン部
公共ソリューションデザインG
釜本 真有(かまもと まゆ)
釜本:SUSTIEは4階建ての建物ですが、2階は社員同士が気軽に会話できる対話ゾーン、3階は掘りごたつ式のソファなどを配置したリラックスゾーン、4階は個人の仕事に没頭できる集中ゾーンとそれぞれにテーマがあり、仕事内容や気分に合わせて場所や時間を選べるABW(Activity Based Working)を採用していることが大きな特徴です。そのメリットを最大限に活用できるよう、各フロアのコンセプトに応じたカラー展開や什器構成にすることで、ビル内を移動したくなるようなデザインを心がけました。さらには、壁面緑化などバイオフィリックデザインを施し、心理的・肉体的な幸福度向上とともに温度調整や空気清浄効果にも貢献しています。

SUSTIEが愛着を持って働けるオフィスになるよう実際に働く社員の方々とワークショップを重ね、どのようなオフィスにしたいのかを一緒に考えてもらったという。結果、釜本さんの耳には多くの喜びの声が届いた。
釜本:これまでの一人にひとつ固定のデスクを持つ働き方から、フリーアドレスという新しい働き方に大きく変わることもあり、竣工前だけでなく竣工後も社員の方と一緒にワークショップを行い、改善活動を行いました。フリーアドレスに抵抗のあった人からは「思っていたより働きやすいですね」と言ってもらえたり、今まで自分のデスクからほとんど動くことがなかったという人から「働く場所を用途によって変えることができるので視野が広がり、1日の歩数も増えて健康的になりました」という声をもらうことも。オフィス環境が働く人に与える影響の大きさを改めて実感し、今後の大きなモチベーションになっています。
最後に、釜本さんと大谷さんが今後のビジョンをこのように語った。
釜本:社内外を含め多くのパートナー、そして実際に働く社員とともに作り上げたSUSTIEには、個人的にも強い思い入れがあります。これからも環境にやさしく、働く人がより活き活きと過ごせる空間づくりを追求していきたいと思います。
大谷:多くの方は「省エネには我慢が付きもの」と考えておられるかと思います。しかし、『ZEB』は繰り返し申し上げているように省エネと快適性=働きやすさを両立するビルであり、事実、SUSTIEは健康性・快適性の認証制度である『CASBEEウェルネスオフィス』でも最高のSランクを、健康的な建物環境を評価する国際的な認証である『WELL認証』においても最高ランクの「プラチナ」を取得しています。このSUSTIEでの実証を通じて“我慢しない省エネ”の技術を確立し、お客様へより良いZEBソリューションを提供したいと考えています。
省エネを評価する「BELS」、健康性・快適性を評価する「CASBEEウェルネスオフィス」と「WELL認証」、これらの最高ランクを国内で初めて取得したSUSTIE。 それはまさに、環境省が掲げる「2030年に目指すべき建築物の姿」といっても過言ではないだろう。大谷さんの言葉の通り、ここで得られた数多くのデータと運用のノウハウが今後の『ZEB』に展開され、人と環境にやさしいビルが増えていくことを願ってやまない。
*建物内で働く人たちのウェルビーイング(身体的、精神的、社会的に良好であること)に影響を与えるさまざまな機能に対する第三者認証


※本記事内の製品やサービス、所属などの情報は取材時(2023年1月)時点のものです。