オフィスビルやショッピングモール、サービスエリアなど、公共の施設のさまざまなトイレに設置されているハンドドライヤー。衛生状態にとくに敏感な病院や工場、学校などでも導入が進んでいる。しかしこの便利な機械は、いつの間にここまで浸透したのだろうか?普段、何となく使っているが、実は「正しい使い方」がある?最新モデルに搭載された、今だからこその機能とは?などなど、「へー!」と言いたくなるハンドドライヤートリビア5選をお送りする。
INDEX
- そもそもハンドドライヤーとは?
- 手作りの試作機から「両面式」の発想が誕生
- 【トリビア1】重量17kgの初号機を手持ちで
- 【トリビア2】ブレイクの起爆剤となったのは○○○○店
- 【トリビア3】ハンドドライヤーの正しい使い方
- 【トリビア4】水跳ねを99.9%カットする仕組み
- 【トリビア5】ハンドドライヤーが空気清浄までカバー
そもそもハンドドライヤーとは?
ハンドドライヤーについて教えてくれるのは、三菱電機 中津川製作所の小林章樹さんと安田夏月さん。
トリビアに入る前にまず、ハンドドライヤーの基本を知っておきたい。そもそもハンドドライヤーとは、どんな機器なのだろうか。
小林:ハンドドライヤーとは、トイレなどで洗った手を、何にも触れることなく風の力で乾かす機械のことです。ハンドドライヤーには大きく分けて2つのタイプがあって、1つは弱い温風で水を蒸発させて乾かす「温風式」。もう1つは高速の風で水を吹き飛ばす「ジェット風式(または高速風式)」です。
言われてみれば、子どもの頃、ハンドドライヤーは手が熱くなるので苦手だったが、気づけばそんなこともなくなったような……。
小林:そうなんです。日本でハンドドライヤーが使われ始めた1990年前後には、温風式しかありませんでした。ちなみに海外ではつい最近まで温風式のハンドドライヤーが主流だったんです。しかし、温風式は手が熱くなりますし、乾かすのに時間がかかるという難点がありました。
そこで、私が所属する中津川製作所の先輩たちは、「もっと快適に、もっと簡単に手を乾す方法はないか」を研究することにしたそうです。中津川製作所はもともと扇風機や換気扇など、“風”を扱うことが得意でしたから、その技術をハンドドライヤーに活用したいと考えたのです。

小林章樹さん
2003年の入社以来、三菱電機製のほぼすべてのハンドドライヤーの設計に携わる。最新モデル「ジェットタオル スリムタイプ(衛生強化モデル)」では商品企画から始まり、設計の取りまとめまで全般を担当した。
手作りの試作機から「両面式」の発想が誕生
1991年10月、ハンドドライヤーの開発は手作業から始まった。「風の中津川」の異名をもつ中津川製作所でも、初めて設計するハンドドライヤーにはかなり苦戦したらしい。
小林:ビニール製のパイプに穴を開けて高圧空気を送り込み、手を乾かす実験を重ねたそうです。ところが、指先がいつまでたっても乾かない。よく観察してみると、片側から風を当てるだけだと水滴が反対側に回り込んで、指先にたまってしまうことがわかりました。そこで、手の両面から風を当てれば指先に残った水をうまく吹き飛ばせるのでは、という発想にたどり着きました。
こうして完成したのが、世界初の両面ジェット式ハンドドライヤー 「ジェットタオルJT-16A」。開発が始まってから2年後の1993年、三菱電機製のハンドドライヤー初号機として市場に投入された。
【トリビア1】重量17kgの初号機を手持ちで
期待を背負ってデビューした世界初の両面ジェット式ハンドドライヤー。さぞ評判を呼んだことと思いきや、そうではなかったらしい。
安田夏月さん
2019年の入社以来、ハンドドライヤーの営業担当として販売計画の立案、マーケティング、チラシやカタログなどの販促ツールの制作などに携わる。コロナ禍におけるハンドドライヤーの動向についても注視している。
安田:最初はまったく売れなかったそうです。当時はハンドドライヤーの存在がほとんど知られていなくて、営業しても「何それ?」という感じだったんですね。そこで当時の営業担当者は初号機の実物をジュラルミンケースに入れて持ち歩き、全国津々浦々、さまざまな業種や店舗に飛び込み営業をしたそうです。初号機の重量は17kgもあったそうです(現在のスタンダードモデルは約9kg)。
認知度の低さだけではない。初号機は現在のものに比べて圧倒的に大きく、重く、運転音がうるさかった。「手が速く乾く」「顧客サービスになる」「ペーパータオルが不要になる」などのセールストークを聞いても、導入をためらう店舗が多かったことは想像に難くない。
【トリビア2】ブレイクの起爆剤となったのは○○○○店
発売から1年後、ハンドドライヤーは意外なところで導入され始めた。
安田:パチンコ店です。パチンコ店では店内アナウンスのボリュームが大きいし、玉の音が鳴り続けるのでハンドドライヤーの音が気になりません。それに、トイレに立ったお客様は早く席に戻るために一刻も速く手を乾かしたい。そんなニーズにハンドドライヤーが合致したんです。それがきっかけとなってハンドドライヤーの認知が進み、同時に「両面式はとにかく速く手が乾く」という情報が口コミで広がり出しました。
現在では多くのトイレに設置されているハンドドライヤー。かつてはトイレ衛生に敏感で顧客に配慮したパチンコ店でしか使えないレアな機器だったのだ。
【トリビア3】ハンドドライヤーの正しい使い方
ところで、ハンドドライヤーを使いこなすにはベストな方法があるらしい。
小林:三菱電機製の両面ジェット式ハンドドライヤーは、初号機からずっと「サイドオープン式」になっているんです。その特長を生かして、両脇から手を入れて引き抜くように持ち上げる。これを何度かくり返すと、最も速く、効率よく手を乾かすことができます。


知らなかった。たしかに風が吹き出している最中に上から手を入れると、手に残った水が飛び散り、服が濡れることがある。横から手が入れば服や周囲の人に水を跳ねかけることがないので安心だ。
【トリビア4】水跳ねを99.9%カットする仕組み
さらに、最新モデル「ジェットタオル スリムタイプ(衛生強化モデル)」では、利用者への水滴の飛散を99.9%抑えることに成功した。
小林:以前から、感染症の流行期になると「水に混じって菌やウイルスが飛散しないか心配だ」という声はあったんです。コロナ禍が始まって以降、その懸念が強くなったことがハンドドライヤーの使用停止につながったのかもしれません。そこで私たちは、感染症対策の専門家に相談し、水の飛散をギリギリまで抑える技術に挑戦しました。
その結果、小林さんたちが開発したのが「2段ノズル構造」だ。これまでのハンドドライヤーでは、乾燥用の風を両面から吹き出すものだった。今回のモデルではそれに加え、「水滴の飛散を抑えるための風」をプラス。

小林:工場や店舗などの入り口に、ほこりや虫の侵入を防ぐエアカーテンがありますね。それと同じようなものを新たに追加したのです。風の力で水の飛沫を本体内に吹き落とし、外部に漏れないように工夫しました。
【トリビア5】ハンドドライヤーが空気清浄までカバー
専門家のアドバイスから生まれた新機能は他にもある。その一つが、空気清浄機能。「ジェットタオル スリムタイプ(衛生強化モデル)」は、ハンドドライヤーなのにウイルスや菌を抑制(リンク先ページ注記※3、4をご確認ください)
し、空気をきれいにすることもできるのだ。
その機能を担うのが「ヘルスエアーⓇ機能」搭載循環ファン。これはもともと単体で販売されている製品で、住宅や店舗の天井などに設置して、室内の空気をきれいにするというものだ。それを組み込んだ「ジェットタオル スリムタイプ(衛生強化モデル)」は空気清浄もできるようになった。

安田:コロナ禍になって以降、ウイルスや菌を抑制(リンク先ページ注記※3、4をご確認ください)するという機能に注目が集まり、住宅やオフィスに「ヘルスエアーⓇ機能」搭載循環ファンを取り付けたいというお客様が急増しています。このファンは脱臭効果も高いので、ペットを飼われているご家庭ではとくに好評です。ハンドドライヤーに「ヘルスエアーⓇ機能」が追加されたことで、トイレの臭い対策に悩むビルオーナー様、管理会社様からのお問い合わせが増えるのではと予想しています。
本体そのものにも菌やウイルスに対抗する仕組みがある。これまでのハンドドライヤーでは、全面に抗菌加工樹脂が使われていた。「ジェットタオル スリムタイプ(衛生強化モデル)」ではそれに加えて、全面に抗ウイルス加工樹脂
も採用。本体に付着したウイルスを変質させ、ウイルスの数を減少します(※)。
小林:さらに、水に濡れやすい箇所や水をためるタンクなどについては、掃除しやすさに徹底的に配慮しました。ハンドドライヤーの衛生性を維持することで、お客様の手と空間の衛生性は必ず向上しますから。
※抗ウイルス加工剤有無での24時間後の試験結果。実際の使用空間での試験結果ではありません。【試験機関】(一財)ボーケン品質評価機構【試験方法】ISO21702に基づく【抑制方法】樹脂(部品)に抗ウイルス加工剤を添加。【対象】抗ウイルス加工剤を添加した樹脂に付着したウイルス【試験結果】抗ウイルス加工剤有無で、24時間後のウイルス数の減少効果(99%以上)を確認(20221040841-1)。試験は1種類のウイルスで実施。
ハンドドライヤーの今と昔、中と外にまつわるトリビア、いかがでしたか? 最後におまけトリビアを2つほど。まず、ハンドドライヤーを「ジェットタオル」と呼ぶ人も多いが、ジェットタオルは1993年の初号機発売以来の三菱電機の登録商標だということ。もう一つはハンドドライヤーのピクトグラム。三菱電機や関連会社で名刺やチラシ、シールなどに使われているが、誰がいつ考えたのか中津川製作所でもわからないそうだ。かなりレアなので、出会えたらラッキー、かもしれない。