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赤外線センサーが作るオフィスや店舗の快適空間レシピ

エアコン×赤外線センサー×換気機器 赤外線センサーが作るオフィスや店舗の快適空間レシピエアコン×赤外線センサー×換気機器 赤外線センサーが作るオフィスや店舗の快適空間レシピ

別置ムーブアイコントロールユニット」は、天井に設置することで、センサーによるきめ細かい制御による快適空調を実現。さらに、換気機器との連携制御で、効率よく換気することができる。このユニットの開発に携わった2人に、特長や期待される役割について聞いた。

INDEX

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  • 天井に設置する丸いコントローラー
  • 人工衛星の技術で室内の温度を「見える化」
  • コロナ禍の影響で追加した2つの新機能
  • 「空気のコスト」を削減

天井に設置する丸いコントローラー

オフィスには暑がりの人もいれば、寒がりの人もいる。エアコンを自分で調整したい人もいれば、機械にお任せ派の人もいる。快適に感じる室温は人それぞれなので、エアコンで「ちょうどいい」環境を作るのはなかなか難しいのが現実だ。この課題に挑戦したのが、上條将広さんを中心とした三菱電機静岡製作所のチームだ。

天井についている別置ムーブアイの写真
天井に設置された丸い装置が「別置ムーブアイ」。直径170mmほどで、その名の通り、目(=赤外線センサー)が動いて広範囲の状況を検知する。

上條さんたちは、2021年5月に発売された「別置(べつおき)ムーブアイコントロールユニット(以下、別置ムーブアイ)」の開発を担当した。別置ムーブアイとは、オフィスや店舗などの広い空間で、複数のエアコンと換気機器をコントロールするための機器のこと。

上條:簡単に言うと、赤外線センサー付きのコントローラーです。これを天井に取り付けると「ムーブアイ」と呼ばれる赤外線センサーが床の温度や人の位置、人数を検知して、複数のエアコンと換気機器をそれぞれ人に代わって自動でコントロールしてくれます。

家庭用エアコンでは、本体についたセンサーが人を見分けて風向を変えたり、温度ムラをなくしたりしますよね。それと同じようなことを、オフィスなどのより広い空間で実現するのが、この『別置ムーブアイ』なんです。

上條将広の写真
三菱電機株式会社 静岡製作所
パッケージエアコン開発推進プロジェクトグループ
上條将広

主に、国内向けパッケージエアコン(※1)の室内ユニットの設計・開発を担当。2019年5月から別置ムーブアイコントロールユニットの開発に参加し、仕様の検討から設計、評価まで開発プロセスのほぼ全てに携わった。「仕事の合間に、オフィスの熱画像をスマホでこっそりチェックするのが最近の密かなお気に入りです(笑)」

別置ムーブアイの第一の特徴が、個人のスマートフォンからエアコンの操作ができることだ。スマホに専用アプリ「MELRemo+(メルリモプラス)」をダウンロードすれば、温度調整や風向設定ができる。面白いのは、画面に室内の温度状況(熱画像)を表示できること。さらに、任意のエリアをタッチして設定を変えられる「サーモタッチ機能」も搭載されている。

スマホに温度状況(熱画像)を表示している画像
スマホ画面に暑いところはオレンジ色や赤、寒いところは水色や青で表示される。
スマホに温度設定画面を表示している画像
スマホを使えば自席から手軽に設定を変えられる。

営業担当である栗栖裕之介さんは、納入先からの感想を耳にした。

栗栖:熱画像の表示については、家庭用エアコンでは最上位機種の一部が対応しているだけで、業務用エアコンはこれまで未対応でした。別置ムーブアイは、個々のスマホで室温が一目瞭然なので、「すごいものが出たね」とご好評をいただきました。また、各自のスマホから操作できるため、共用の壁付けリモコンを触らなくてよいので衛生的でうれしいという声もあります。

栗栖裕之介の写真
三菱電機株式会社 静岡製作所 営業部
栗栖裕之介

主に国内向けパッケージエアコンの商品戦略・事業戦略の企画に携わる。別置ムーブアイの開発に際しては、営業担当者として空調や換気、それを連携させるセンサーに関するニーズをヒアリング。上條さんらとともに仕様の検討を行った。「アニメやドラマにエアコンが出てくると、どこのメーカーのものか思わずチェックしてしまいます」

※1 パッケージエアコン……オフィスや店舗などの大空間で使用される業務用の空調機器。

人工衛星の技術で室内の温度を「見える化」

別置ムーブアイは、エアコンの自動制御もできる。例えば「ムラなし運転モード」に設定しておくと、室内の一部が暑かったり寒かったりする場合、エアコンの風向や風速を自動調整して温度ムラを解消する。また、室内をいくつかのエリアに分け、エリアごとに「風を避けたい」「風を当ててほしい」などと設定しておけば、自動的に好みに合った環境になる。

上條:それを可能にしたのが、別置ムーブアイに搭載された高精度の赤外線センサーです。このセンサーは、人工衛星「だいち2号(※2)」に搭載された赤外線センサー技術(※3)を活用したもの。このセンサーによって、従来のものに比べて約5倍、14.4m四方(※4)という広範囲のエリアをカバーし、詳細な情報が得られるようになりました。

※2 陸域観測技術衛星2号「だいち2号」……三菱電機が宇宙航空研究開発機構(JAXA)から主契約者として受注・製造した地球観測衛星のこと。2014年5月24日に打ち上げられ、現在、軌道上で運用中。これに搭載された赤外線センサー技術(※3)が活用され、別置ムーブアイに搭載されている当社独自に開発した「サーマルダイオード赤外線センサー」が誕生した。

※3 陸域観測技術衛星2号「だいち2号」の地球観測用小型赤外カメラに利用された技術。

※4 設置高さが2.7~4.5mのときの、床上高さ1.1mの平面において。

コロナ禍の影響で追加した2つの新機能

赤外線センサーからの情報は、換気のコントロールにも利用される。例えば飲食店で、ランチタイムが始まり、来客が一気に増えた時には換気風量が自動的に「強」に。一方、オフィスでは会議が終わり、在室人数が減ると換気風量が「弱」になり、省エネ運転に切り替わる。

在室率強風モード:換気風量を「強」に切り替えて、しっかり換気。在室率省エネモード:換気風量を「弱」に切り替えて、省エネ運転。

上條:三菱電機には、冷房/暖房の熱を逃がさず換気できる「熱交換器」を備えている「ロスナイ®」があります。これを別置ムーブアイと連携させれば、より高い省エネ効果を得られるだろうと、別置ムーブアイの企画がスタートした当初から考えていました。

ところが、コロナ禍が始まって以降、「状況に応じて換気風量を増やしたい」という新たなニーズが出てきたのです。それまでは、不在時などに換気風量を抑える省エネ機能だけを考えていましたが、まったく逆のニーズが生まれたわけです。発売予定時期(2021年5月)まで1年足らずと、あまり時間はありませんでしたが、ニーズがあるなら応えたいと思い、換気に関する新機能を2つ追加することにしました。

追加した新機能の1つが「在室率強風モード」。当初企画していた「人が減ったら換気を弱める」とは真逆の発想で、人が増えたら換気を強めるという機能だ。

もう1つの「換気プッシュ通知」は、在室人数が増えると、前出のアプリを入れたスマホに「人が増えてきたので換気を確認してください」と通知が出るというもの。この機能は、別置ムーブアイが直接制御できないタイプの換気機器がついている場合に有効だ(※5)。

※5 別置ムーブアイコントロールユニットが連携制御できるのは、三菱電機製の店舗・事務所用パッケージエアコン、ビル用マルチエアコン、業務用熱交換形換気機器(=業務用ロスナイ®など)。

「空気のコスト」を削減

別置ムーブアイに期待される役割の一つが、空気に関わるコストの削減だ。

栗栖:別置ムーブアイを「不在省エネモード」に設定すると、不在時の空調パワーを2℃分セーブして運転することで、高い省エネ効果が期待できます。換気の省エネ機能も併用すれば、空気に関するランニングコストはさらに抑えられるでしょう。

導入コストも手頃だ。例えば既存の大規模なオフィスビルで空調や換気を一括管理するシステムを新規導入するには、イニシャルコストはかなり膨らむ。しかし、別置ムーブアイは必要な場所ごとに1台ずつ後付けすることが可能だ(※6)。

※6 別置ムーブアイ1台につき、室内ユニット最大4台、ロスナイ®最大2台接続可能。

別置ムーブアイの検知範囲の説明図

コロナ禍をきっかけに換気や清浄な空気への関心は高まっており、その傾向は当分続くだろう。国や自治体はさまざまな補助金や助成金を出し、医療機関や新型コロナウイルスの感染拡大を防止するための換気機器や空気清浄機の導入を推進している。身近な場所の空気の質を見直すなら、今が絶好のタイミングかもしれない。

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市原淳子の写真
取材・文/市原淳子
雑誌の編集者・記者を経て独立。食やヘルスケア、医療・介護から最前線のビジネスフィールドまで幅広いジャンルにわたり、Webメディア、雑誌、新聞、また単行本の企画・構成などを手がける。企業人や職人、アーティストへのインタビュー多数。発信者と読者をつなぐ、わかりやすくて面白いメディア作りの達人。