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外国人労働者200万人突破。現場で今何が起きているのか

その わかりました 本当に伝わってる?

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外国人労働者数の増加が止まらない。
2020年はコロナ禍で伸びが止まったものの、その期間を除けば2008年からその数は右肩上がりに増え、2023年には約205万人に。初めて200万人の大台に乗った。
労働者不足を補う外国人労働者は、日本経済を回す上でもはや欠かせない存在となっている一方で、言葉の壁や働き方の違いなどをめぐり、各現場では様々な問題が起きているという。
外国人労働者がより生産性高く生き生きと働くためには、どんな環境を構築すべきなのか。
外国人採用・受け入れを含む人事課題解決に取り組むエイムソウル代表取締役の稲垣隆司氏と、外国人労働者との意思疎通を円滑化する「翻訳サイネージ」を開発する三菱電機の関係者に話を聞いた。

出典:厚生労働省「外国人雇用状況」の届出状況まとめ(令和5年10月末時点)

出典:厚生労働省「外国人雇用状況」の届出状況まとめ(令和5年10月末時点)

INDEX

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  • 遅刻に一番厳しい国はどこ?
  • 伝わっているのは「半分程度」
  • 現場従業員の表情が変わった

遅刻に一番厳しい国はどこ?

「一昔前は、アジアの国々から外国人が“出稼ぎ”に来ているという感覚が強かったと思います。
一方でそうした国々と日本の給料の差は急速に縮まっており、日本で働くことの魅力が相対的に下がっているのが現状です。
日本の労働力が明確に不足しているいま、働きたい国として外国人に日本を選んでもらう必要がある。だからこそ、外国人労働者が生産性高く、やりがいを持って働ける職場環境を整えることが急務なのです」

そう語るのは、外国人採用・受け入れを含む人事課題解決に取り組むエイムソウル代表取締役の稲垣隆司氏だ。

エイムソウル 代表取締役 稲垣隆司

業種別に見ると、外国人労働者が最も多い業種は、製造業。次いでインバウンド需要の影響で、ホテルなどを含むサービス業や、卸売業・小売業も上位に並ぶ。
実際に都内のコンビニや観光地のホテルに行けば、外国籍の店員の姿を見ない日はないだろう。私たちの生活は、それほど彼らに支えられているのだ。
その一方で、急速に増える外国人労働者に対応できず、現場ではさまざまな問題も起きているという。

「たとえば、外国人労働者の早期離職は現場の頭を悩ませている一つです。日本の新卒は3年で3割辞めると言われていますが、私たちが行った調査では、外国人労働者は1年で3割辞めるとの結果が出ました。
その背景には言葉や文化、働き方への考え方の違いが大きく関わっています。興味深いデータがあるのですが、各国の遅刻の概念を調査したことがあるんです。
韓国、中国、インドネシア、インド、アメリカ、日本の6カ国の人たちに対して、「1ヶ月のうち遅刻は何回までが許容範囲か」を聞きました。
そうすると、一番遅刻に寛容なのがインドの4.2回で、一番厳しいのが日本で1.5回。日本以外で遅刻に一番厳しかった韓国ですら、月に3回は許容できるとの結果なので、日本がいかに遅刻に厳しいかがわかります。
それぞれが思う常識がここまで異なると、さまざまな軋轢が生じるのは想像に難くないですよね」(稲垣氏)

外国人労働者を雇う職場のトラブル例

伝わっているのは「半分程度」

そんななかでも、やはり言語の壁は高い。三菱電機の群馬工場で班長を務める大竹洋輔氏は、生産現場での悩みをこう語る。

「私たちの工場では、従業員の約3割にあたる90人程度が外国籍。南米からアジアまで、本当に多様な国籍の方々が働いており、ものづくりにおいて重要な役割を担ってくれています。
ですが、やはり言語の壁は明確に存在します。私たちの工場では毎朝朝礼があり、その日の作業内容や注意するポイントなどを伝えているのですが、それがなかなか伝わらない。
皆さんその場では『わかりました』と返事をしてくれます。ですが、作業を任せてみるとミスが発生してしまいます。
生産現場のリーダーに対しても、『外国籍従業員へわかりやすく伝えるためのやさしい日本語講座』という研修も実施しているのですが、そうした方法を駆使しても、伝えたいことの半分が伝わっているかどうか……というのが実態でした」(大竹氏)

三菱電機株式会社 群馬工場 給湯工作課 部工係班長 大竹洋輔

ものづくりの現場では、作業の一つひとつが製品の品質に直結するのはもちろん、一歩間違えばケガ等の労働災害にもつながりかねない。「現場で働く従業員の安全を守ること」をミッションとする大竹氏にとって、これはかなりの悩みだったという。
そうした現場での多言語コミュニケーションを助けるべく、三菱電機が開発したのが生産現場向け対話ソリューション「翻訳サイネージ」だ。
日本語を入力すると、文章が英語はもちろん、ポルトガル語やタガログ語などを含めた17カ国語に一括翻訳され、同時に大画面ディスプレイに表示される。
多国籍の従業員が在籍する現場に向けた、1対Nのコミュニケーションを想定して開発された対話ソリューションだ。

大竹さんと翻訳サイネージの写真

翻訳サイネージを使って説明する様子。多言語に翻訳された文章が、サイネージ上に表示される。

なぜこのようなソリューションが生まれたのか。三菱電機で「翻訳サイネージ」の開発チームを率いた松原勉氏はこう語る。

「こうした生産現場の問題に対して、当初は1対1のコミュニケーションを支援する翻訳アプリを提案していました。
しかし現場でのヒアリングを重ねると、むしろ困っているのは多言語で大勢に伝える必要がある朝礼の場であることがわかってきたんです。
そこで1対1のアプリから発想をピボットさせて開発したのが、『翻訳サイネージ』なのです」(松原氏)

特筆すべき機能は、「折り返し翻訳」だ。一度翻訳した文章を再度日本語に翻訳することで、言いたいことが正確に訳されているかどうかを確認し、誤翻訳を抑制できる。
こうした機能も、現場でのヒアリングから生まれたものだという。実際に開発に携わった岡村衣里子氏は、こう振り返る。

左:三菱電機株式会社 ビジネスイノベーション本部 UIUX・企画担当 岡村衣里子/右:三菱電機株式会社 ビジネスイノベーション本部 Associate Expert(生産現場DXプロジェクトリーダー)松原勉

「すでに世の中にはさまざまな翻訳アプリがありますが、翻訳された文章が正しいかわからないという点は、実は現場で混乱を招いていました。
実際に、既存の翻訳アプリで訳した文章を見せても、外国籍の方はキョトンとしているし、日本人側も何が間違っているのかわからないから直しようがない、という場面も多くあったんです。
そうした現場を見て、多言語に翻訳するだけでなく、伝える側が誤翻訳に気づき・修正することで、相手に正確に伝達できるツールの必要性を痛感しました」(岡村氏)

折り返し翻訳イメージ

現場従業員の表情が変わった

いまとなっては「翻訳サイネージ」は、群馬工場にすっかり定着し、なくてはならない存在になっているという。

「『翻訳サイネージ』を導入してから、外国籍の方の表情が確実に変わりました。言いたいことが正確に伝わっているな、と。実際に作業の間違いも減りましたし、外国籍の方の満足度はもちろんのこと、品質や安全性についても向上しているというデータも出ています。
嬉しい驚きとして、採用にもよい影響が出ています。『こんなツールが入っていて働きやすいから、三菱電機の工場で働くことを友人にも勧めたい』と言ってくれる方も出てきているんです」(大竹氏)

生産現場で行った実証実験のアンケート結果

とはいえ、まだまだ始まったばかりのこのサービス。改善の余地は大いにあるというのが関係者の総意だ。
三菱電機の岡村氏は、使い勝手の部分をアップデートしていきたいと意気込む。

「現場に入って改めて感じたのは、班長をはじめとした現場の方々は、本当に忙しいということ。そんななかでも使い続けてもらえるよう、使う側の視点に立って工夫する必要があります。
そこで業界特有の用語を辞書登録して、よりスムーズに翻訳できる仕様にしたり、安全や品質などの日々伝えるべき文章のテンプレートを作ることで、文章を作成する手間を削ったりといった機能をこれまで実装してきました」(岡村氏)

岡村さんの写真

稲垣氏も「業界用語」のスムーズな翻訳が、使い勝手の鍵を握るのではないかと話す。

「特に日本には自動車系の製造現場は多いのですが、そこには特殊な言い回しが多数あります。
実際に現場で聞いた例なのですが、『ハンドルを取られる』という表現は、運転者の意思に反してハンドルが動いてしまうことを指しますが、ストレートに翻訳すると『ハンドルが奪われる』といった意味にとられてしまう。
これはほんの一例に過ぎませんが、製造現場ならではの業界用語、専門用語を辞書的にプリインストールしておけると、さらに現場での使い勝手がよくなりそうです」(稲垣氏)

翻訳サイネージと稲垣さん、大竹さん、松原さん、岡村さんの写真

開発をリードする松原氏は、今後は生成AIなどの技術活用も視野に入れながら、翻訳サイネージを進化させたいと語る。

「いまは日本語から多言語に翻訳、という想定ですが、今後は班長が外国人になる可能性だって増えてくるはず。多言語で朝礼ができる班長ってかっこいいなと思ってもらい、現場の人の距離が縮まるようなソリューションを目指していきたいですね」(松原氏)

国籍や言語に関係なく、誰もが生産性高くやりがいを持って働ける環境をつくる。そんな未来へ向けた第一歩が、いま群馬の工場から始まっている。

(執筆:横山瑠美 撮影:大橋友樹 デザイン:Seisakujo inc. 編集:金井明日香)

※本記事内の製品やサービスの情報は取材時(2025年2月)時点のものです。