「人生100年時代」といわれて久しい。会社員の定年退職の年齢も55歳から60歳に延び、今では希望者は65歳まで働けるようになっている。寿命もほぼ右肩上がりだが、亡くなる直前まで健康でいられるわけではない。平均すると亡くなる10年前後は病気と向き合っている人が大半だ。長く生きるだけでなく、できることならば、健康で楽しく長く生きていたい。ただ、体にいいことはつらさや不便さを伴うことも多い。あまり運動したくないし、おしいものを食べたいけれども健康でいたい。それは無理な願望なのだろうか。
多くの人は一日でも長く健康でいたいと願っているはずだ。
健康を維持するにはそれなりの努力が必要なことも理解しているが、可能ならば、無理せず、健康を手に入れたいと考えるのが人間だ。
「きついトレーニングはしたくないけれども、ウォーキングくらいなら」と思っても、最初の一歩を踏み出せない人が多い。厚生労働省はウォーキングの具体的な目標値としては、20~64歳の場合、男性で9,000歩、女性8,500歩、65歳以上の場合は男性で7,000歩、女性で6,000歩をあげている。そう多くない目標値だが、運動習慣がないわけだから、歩く意欲を起こさせるのが大変だ。
「運動したくない、でも健康でいたい」のような状況を両立させるためには、無理なく日常的にできる仕組みづくりが重要だ。
ウォーキングを暮らしに組み込むには「階段を使いなさい」「1駅手前で降りなさい」とよくいわれるが、それだと運動することで、不便さが増えるというトレードオフの関係になってしまう。これでは続けるのが簡単ではない。
では、どうすればいいのか。運動する時に運動以外にプラスのメリットを見出せばいい。つまり1-1=0ではなく1+1=2にする習慣をつくるのだ。
例えば、都心に住んでいて仕事で外回りが多い人は時間に余裕を見て交通機関(特にタクシー)を使わないで、目的地まで歩いてみる。取引先には必ず行かなければいけないので強制的に歩かざるを得ない。
外回りが多い人の中には電車やバスで目的地近くまで移動して、喫茶店などで時間を潰す人もいるだろう。時間を見積もった上で歩けば、歩速も調整でき、時間を過不足なく使った気持ちになれる。お金の節約にもなる。
運動と同じように健康に欠かせないのが食事だ。
「若いころと同じ量を食べているだけなのに気づいたら何キログラムも太っていた」というのはよくある話だ。その原因のひとつは食事の中身にある。
忙しいのでつい昼間は麺類ですましてしまう人も多いだろう。極端な例では、毎日、うどんかそばかラーメンという人もいるだろう。そうすると結果的に糖質過多でたんぱく質不足に陥りがちだ。
そこで、主食でたん白質を摂れるようにと大豆をつかった麺が最近は実用化されている。
「あまりおいしくなさそう」という声も聞こえてきそうだが、味は日進月歩だ。
確かに大豆麺は特有のクセのある香りとザラつきがあり、コシも出しづらく、おいしさをどう担保するかが課題だった。大豆の種類を選別したり、配合割合についても試行錯誤を繰り返したりすることで、確実に小麦麺に味は近づいている。健康ブームも追い風に少しずつ認知度が高まっている。
大豆麺は一例だが、健康的な食べ物は酸味や苦みが強いことも多く、「おいしい」と 「健康」は矛盾しがちだが、近年はテクノロジーによってこのトレードオフをなくす取り組みが目覚ましい。
従来両立しないと思われているもの、トレードオフになりがちなものを両立させていく。簡単なことではないが、最初からあきらめてはいけない。少し見方を変えることや、テクノロジーを使うことでそのハードルを低くすることは決して不可能ではない。