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コロナで見えてきた「データの生かし方」

社会の課題を素早く読み解くヒント集 3min column コロナで見えてきた「データの生かし方」社会の課題を素早く読み解くヒント集 3min column コロナで見えてきた「データの生かし方」

新型コロナウイルス感染症をはじめ指定感染症の診断をした医療機関は、その結果を当局に「直ちに」届け出る義務がある。患者をスピーディーに発見し、まん延を防止するための当然の措置である。

医療機関は実際にはどうするのか。届出の様式は厚生労働省のサイトからダウンロードできる。手書きでもパソコンを使った入力でもいい。しかし、その届出の方法が窓口への持参か郵送、またはファクスでなければならないということは、あまり知られていない。

なぜメールではいけないのだろう。当局のあいまいな答えを総合すると、どうやら信頼性の問題らしい。診療情報は高度に秘匿されるべき個人情報である。まして感染症の場合、患者だと周囲に知れてしまうと不利益をこうむる恐れが大きい。メールは不特定のIPサーバ上でデータを複写しながら相手に届く仕組みだし、誤って他人に送ってしまう恐れもある。

だったらメールをパスワード保護にするか、当局が感染者の登録サイトを開設して医療機関が入力する仕組みにしたらいいのではないか。これについて関係者は「セキュリティの方法として定着しておらず、政府内で合意できていない」という。そもそもファクスだって送信先を間違えたり、第三者が見てしまったりする恐れがあるから、昔は認められていなかった。定着したと見なされて、ようやく使えるようになった。だから、いずれは電子的な届出も可能になるだろうが、それには時間がかかるということらしい。

つまり現段階では、コロナ感染者発生で届く大量のファクスのアナログ情報を、当局はせっせとデジタル化して処理しているというわけだ。驚くべき非効率である。

この事例から学ぶべきことは、「データはあるだけではダメ」という平凡な事実だ。デジタル化されていないデータの価値は著しく低い。しかしデジタル化されたらいいというものでもない。政府関係に限っても、たとえば気象庁のサイトからは過去から現在までの全国の観測地点ごとの膨大なデータをダウンロードできる。国土地理院は、明治以降の日本の地図や航空写真を公開している。そこから何かを見つけ出すのは、それこそ砂浜で宝石の欠片を探す行為に等しい。

データの利活用で重要なのは企画力である。「どんなデータを集め、どう使うか」があいまいなままだと、大量データの海で溺れてしまう。新型コロナの場合、いま進行中の医療関係者へのワクチン接種と並行して、過去の病歴や体調と副反応などの相関を探る本格的な研究がようやく動き出したという。これまでのコロナ患者のデータには、第三者がアクセスできなかったから、新たな知見を得ることが難しかった。今後の成果が期待される。

近年、データ利活用のビジネスの場として注目されているのが宇宙空間だ。人工衛星に搭載した各種センサーが、地球を見下ろして集める観測データは「リモートセンシング」と呼ばれ、広い範囲の膨大なデータが一度に収集できるのが特徴だ。衛星写真のような光学センサーだけでなく、合成開口レーダーを使って電磁波の分光特性を計測すると、より詳しく地表の姿をとらえられる。

このデータを寝かせておくだけではもったいない。使い方によっては新たな価値を生むチャンスだからだ。宇宙航空研究開発機構(JAXA)は最近、東日本大震災の前後の観測データを比較し、被災地の復興の様子を解析する研究成果を発表した。震災前の水田が震災後は荒れ地に変わったことや、10年を経て水田が復活したり、太陽光パネルが設置されたり、高台に新たな市街地が生まれたりしたことが視覚的に確認できる。

都市開発や農業分野でも、新たな知見を得られる可能性があるだろう。衛星データをどう利用するかという企画力が問われているともいえる。いずれは新型ウイルスが発生する場所の条件や、パンデミックの広がりの解析にも利用可能になるかもしれない。宇宙から届くデータを、より効率的に使うことを考えたい。

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